静謐で清らかな、僕と謎の物語。小川洋子『ブラフマンの埋葬』
読むこと#52
小川洋子『ブラフマンの埋葬』
さすがの小川洋子ワールド、
この静謐な空気が好きなんだ。
「創作者の家」。
主人公は、そこの住みこみ管理人の青年「僕」。
ある日、ふしぎな生き物を見つけます。
大きさは、頭が手のひらにおさまるくらい。
暗い色の毛が生えていて、手足は短く、そのかわり尻尾は長い。
…犬?ネズミ?
「僕」はその生き物を飼うことに。
つけた名前は「ブラフマン」。
サンスクリット語で、「謎」。
だいたいひと夏の間の、「僕」とブラフマンのささやかな日常の物語。
ブラフマンがなんの生き物なのか気になるけど、これ結局明かされません。
というか、なんの動物でもなくて、
ブラフマンはブラフマン。
小川洋子作品の特徴だと思うのだけど、
感情の描写がほとんど出てこない。
大きな音とか動きもほとんどなくて、物語の世界が凪いでいる。
その穏やかさがどこかの国のおとぎ話のようで、時々ちょっと不気味に感じながら読むのをやめられない。
繊細で、寡黙で、だからこそ1行1行がひりつくほど洗練されてる。
タイトルから想像するとおり、結末はあまり明るくはない。
でも、静謐な空気のなか、悲しいとかかわいそうとか、そんな一言は無力で無意味だと思い知らされる。
これだから読書はやめられない。