読むこと#33
小川糸『サーカスの夜に』
「得意なことは」
「小さいこと」
13歳の主人公「僕」は、
10歳で身体の成長が止まったまま。
幼いころ飲んだ薬の副作用で、もうこれ以上大きくなれない。
そんな主人公がサーカス団に入団し、成長していく物語。
トイレ掃除や、コックの手伝い。
ちょっと胡散臭くてだらしない、でも人情深くて芸に真剣な団員たちに囲まれて、
日々の仕事を一つ一つこなしていく。
この周りの人たちが、どうにも魅力的!
読み終える頃には、きっとお気に入りの誰かができてる。
彼らは本名は教え合わず、自分のソウルフードを名前にして呼び合う。
トロとかキャビアとか、テキーラとか。
それもイイ。
(ぽんは入団したら、“カラアゲ”と呼んでもらうと決めてる)
また、この小説の魅力の一つは、雰囲気。
スマートフォンが登場するから、現代ではあるらしい。
そして、「ミソシル」「ナットー」
がはるか東洋の食べ物として描かれる。
舞台が日本ではない現代のどこかだとは分かるけど、“どこでもないどこか”のような不思議な空気感。
その不思議な空気が、
ちょっと危なげな優しさというか、おとぎ話のような情緒を物語にまとわせているような気がする。
そして終盤、「僕」は、
ある芸の使い手になる決心をします。
この芸で生きていく覚悟。
この姿の自分として生きていく覚悟。
ぜんぶ胸にぎっしりと抱えるラストシーン、かなり熱いものが込み上げる。
「僕」の隣に立って、自分でいることに覚悟を新たにするような、すごく清々しい気持ちで読み終えた。
迷ったとき、何度も読み返したい小説。
これだから読書はやめられない。