読むこと#37
津村記久子『とにかくうちに帰ります』
タイトルの引力たるや。
著者の作品は好きでちょこちょこ読んできましたが、本作は初めて。
表題作ふくめ、3編収録。
『職場の作法』
『バリローチェのファン・カルロス・モリーナ』
『とにかくうちに帰ります』
…ぜんぶ読まずにいられないタイトル。
ぜんぶ面白い。
どれも、なんかちょっとひねくれているというか理屈っぽいというか、
綺麗じゃないキャラがたくさん出てくる。
でも、汚い人間はあまり出てこないような。
絶妙に、現実にいそうでいなさそうでいそうなライン。
善人でも悪人でもない人間臭さがクセになる。
いちばん好きだったのは、表題作。
豪雨で公共交通機関がストップ、
歩いて帰る羽目になった人たち。
強い雨でどんどん濡れて冷えて消耗しながら、同じ状況の人といっしょに歩きます。
年齢も性別も置かれた環境もそれぞれだけど、
うちに帰る、という目的は同じ。
自分の家で、くつろぐ。
みんなとにかくそれが恋しくて恋しくて、うちに帰るために歩く。
給料も今のままでいいし、彼女もできなくていいから、部屋でくつろぎたいんです!
(本文より)
という言葉に、いや大げさ!
でも、
分かる!!!
と思わずニヤニヤが止まらない。
豪雨のなかってシチュエーションだから倍増してるけど、うちでくつろぐって何にも代え難い快楽。
そう、そうだよ、帰るために家出てんだよ毎日。
帰るからこそ、あしたが、毎日があるんだよ。
著者の作品を読むと、なんというかいつもの生活の彩度が変わる気がする。
これだから読書はやめられない。