読むこと#14
東山彰良『小さな場所』
とにかく雑多な掃き溜めの物語。
なのに、前向きで、宝物のような物語。
舞台は、紋身街。
台湾・台北の繁華街の一角に実在するエリアで、タトゥーショップが立ち並ぶ裏路地。
猥雑。
そんな言葉が似合う街で展開する、
主人公の9歳の少年と、周りの大人たちの群像劇。
この“周りの大人たち”が。
もーー正直、
まともな大人がほとんど出てこない。
みんな欲に忠実で、だらしなくて、下品。
土地柄も相まって、
9歳が遭遇するにはなかなか…ということばかり起こります。
それでも、主人公をはじめ登場人物たちは、
「だってここは台北だから」
と言いながら、置かれた場所で生きていくことにすごく前向き。
そして彼らなりに、譲れないものをきちんともっている。
信条とか大層なものではないけれど、
少年に生きるということを背中で教えているよう。
だから憎めないんです。
読み終えたら、紋身街の彼らをきっと好きになる。
また、著者は台湾出身。
描写が生き生きしていて、もう、紋身街の喧騒が聞こえてくる。
実はぽん、外国が舞台の小説は少し苦手意識が。
(数年前、同じく台湾が舞台の著者の作『流』を読んだときは、かなり時間がかかりました。)
でも本作は、描写がスッと入ってきて読みやすい。
(『流』よりもずっと短くて、現代の設定だし。)
何のために生きるのか分からなくなった時、立ち止まって読み返したい作品。
これだから読書はやめられない。