読むこと#34
加藤千恵『あなたと食べたフィナンシェ』
読んでいると、思い出す食べ物がきっとあるはず。
食べ物にまつわるショートストーリーと短歌集です。
ある食べ物が題になっていて、ショートストーリー、最後に短歌。
というのがひたすら続きます。
その数、30。(!)
1編は10ページそこそこ、短いものは4ページくらいで終わってしまう。
すごいのが、30編ぜんぶ違うこと。
仕事や恋に行き詰まる若者の話や、かと思えばどこか終末の世界のような話も。
穏やかならない事件が起こったっぽい話もある。
それと、
食べ物とストーリーの良いアンバランスさも好き。
文庫タイトルに使われた「フィナンシェ」。
「あなたと食べた〜〜」って言われたら、淡い恋の話かと思う。
それをすっぱり裏切ってくれる設定、気持ちいい。
1番好きだったのは、「ウニ丼」。
細かいことは端折るけど、
食べることで、自分はまだ大丈夫、と歩き出すような短歌が印象的。
生きていくには、食べなきゃいけない。
一生分の運を使ったんじゃないかってくらい嬉しかったあの日も、泣くほど腹がたったあの日も、食べたご飯のことは覚えてる。
きっと読んでるうち、あのときあれ食べてたなぁ…と思い出すはず。
食べているうちはきっと大丈夫。
大丈夫でいるために、今日も食べよう。
そんな、優しくたしかな気持ちになれる小説でした。
これだから読書はやめられない。