読むこと#28
瀬尾まいこ『傑作はまだ』
“息子が父親に”「初めまして」と挨拶するところから始まる。
(もう気になる…!)
著者の作品は、
『そして、バトンは渡された』が記憶に新しいけど、ぽんは本作の方がかなり好き。
『バトン〜』が血のつながらない親子を描いたのに対して、
本作は血のつながった親子を描く。
主人公は50歳の小説家、加賀野。
それなりに稼ぎもあり一人暮らし、周りと積極的に関わろうとせず、引きこもるように小説を書く日々。
彼には、若い頃に一夜の関係でできた息子・智(とも)がいます。
月に一度養育費を振り込むと、領収書のように1枚写真が送られてきていたけど、一度も会ったことはない。
そんな近くて遠い息子が、大人になって突然尋ねてくる…
だから、「初めまして」というわけです。
ひと月あまり、家族と呼ぶにはぎこちない2人が一緒に暮らす。
※設定だけ読むとちょっと気まずいような…
でも、からっとした智とマイペースな加賀野のやり取り、ときに笑いながらぐいぐい読んでしまいます。
しばらく経ち、智が風邪を引いたとき。
加賀野は栄養をつけるよう鍋を作ろうとするのだけど、
家に大きい鍋がない。(1人だと使わない。)
使命感に駆られたようにして、
土鍋を買おう食材も買いに行こうと勇んで出かけて行く。
自分1人ならカロリーメイトで済ませていた加賀野が。
ここ読んだとき、
“誰かと生きる”ことが形になっているなあ、とじんわり泣きそうになりました。
生きることはラクじゃない。
小説みたいに綺麗でもない。
でも、この小説を読んでいて頭に浮かぶ人がいる私は、とても幸せなんだと思います。
これだから読書はやめられない。