読むこと#31
宮下奈都『ふたつのしるし』
『羊と鋼の森』を読んでから、
著者が描く“不器用なひと”がとても好き。
不器用で、でも芯と呼べる静かなたしかな部分をもっているひと。
読んでいると、優しい気持ちになりながらも背筋が伸びる気がする。
本作も、不器用ながら懸命に生きる2人が主人公。
浮かないように妬まれないように、美しい見ためを隠して、馬鹿っぽく振る舞ってきた遥名。
人とは少し違うことに興味や集中が向いてしまい、幼い頃から周囲に馴染めなかった温之(はるゆき)。
それぞれ窮屈な思いを抑えて、もがくように、ときに投げやりに生きてきた2人。
2人が出会い、家族になるまでの物語。
お互いを見つけてから、ぐっと人生が自分のものになっていく様子、じんわり温かい気持ちになる。
自分にはこんな存在いるかな、と考えさせられる。
途中まで2人の人生がクロスすることは無くて、同じ時点でそれぞれの物語が展開されます。
出会いと、出会ってから一緒になるまでがやや唐突な気もするけど、
案外実際の出会いってそんな感じかも。
もう自分の一部みたいな家族。
嬉しいことも愚痴も1番に話したい友人。
何かが一つずれていたら、出会うことはなかったかもしれない。
出会っていなかったら、私の人生はきっともっとつまらなかった。
自分と、自分と出会ってくれた周りのひとたちと。
すべてひっくるめて、人生って悪くないかもなと思えてくる小説でした。
これだから読書はやめられない。