読むこと#32
幸田文『台所のおと』
幸田文作品、一度しっかり読んでみたかった。
“幸田露伴の次女”
という響きに勝手にハードルを感じて未履修だったけど、いざ挑戦。
読み終えてみて。
正〜〜直に打ち明けると、エンタメ系をよく読むぽんにとってはちょっと気合い入れないと難しかった…!
目が滑りそうになるというか、気を抜くと話の細かい流れがふっ飛んでしまうというか。
大きな事件は起こらない。
登場人物が感情を激することもほぼ無い。
そのくらい、日々の小さな心の動きや生活の様を描いた短編集。
でも、生活することってそんな小さなことの積み重ねなんだよな。
なかなか難しくて苦戦しながら読んだけど。
じんわりと沁み入るような言葉。
一方でなんというか、優しいだけじゃない淡々とした切れ味もある。
うわあ面白い一気読み!というより、
噛み締めるように、諭されるように、ゆっくりじっくり読みたい作品たち。
表題作『台所のおと』は、
病床で寝ている夫が、妻の台所仕事の音に耳を傾ける。
その音が最近変わった、というところから、夫婦のこれまでや周囲の出来事が描かれる。
これ、きっと誰にでも浮かぶ思い出があると思う。
ぽんが思い出したのは、両親が朝ごはんを作る音。
子供たちを起こさないように抑えているけど、どこか急いでいるような、控えめに忙しない音。
その音をききながら、あぁ朝だな、起きなきゃな、と布団の中でうつらうつらしていた記憶。
自分はどんな音を立てているだろう。
どんな音を立てる人になりたいだろう。
ふとそう考えさせられて、今日からちょっと意識が変わりそうな気がする。
これだから読書はやめられない。